遺留分がどれだけの割合か(2分の1または3分の1に法定相続分を掛ける)は、遺留分とは、誰に認められるのか で整理しました。
では、実際にいくら請求できるのか。遺産の総額に割合を掛けるだけでは、正しい金額は出てきません。順を追って計算していく必要があります。
ここでの説明は、令和元年7月1日以後に開始した相続にあてはまるものです。それより前に亡くなった方の相続には、改正前の制度(遺留分減殺請求)が適用され、計算の考え方も異なります。
計算は、三つの段階を踏む
第一段階 基礎となる財産の価額を出す
割合を掛ける対象となる財産の価額を確定します。これは、亡くなった時点の遺産と必ずしも一致しません。
相続開始時の積極財産 + 一定の生前贈与 - 債務
生前に贈られた財産を加え、借金などの債務を差し引きます(民法1043条、1044条)。遺産分割のときの計算とは、対象になる財産の範囲が違います。
どの生前贈与を、どこまで遡って数えるのかには決まりがあります。ここは金額に大きく響くところなので、生前贈与は、どこまで遡って数えるか で別に説明します。
第二段階 自分の遺留分額を出す
第一段階で出した価額に、遺留分の割合を掛けます。
基礎となる財産の価額 × 遺留分の割合(2分の1または3分の1) × 法定相続分
第三段階 侵害されている額を出す
最後に、自分が受け取るもの(受け取ったもの)を差し引き、負担する債務を足します(民法1046条2項)。
遺留分額 - 自分が受けた遺贈と、生計の資本などとして受けた贈与 - 相続分に応じて取得すべき遺産の価額 + 自分が承継する債務
債務を足すのが、直感に反するところかもしれません。借金を負わされる分だけ、請求できる額は増える、という考え方です。
ただし、誰がどれだけ債務を承継するかは、遺言の内容によって変わります。 「すべての財産を長男に相続させる」というように相続分の指定がある場合、相続人の間では、長男が債務も全部引き受けたものとして扱われるのが原則です(最高裁平成21年3月24日判決)。この場合、ほかの相続人が足すべき債務はありません。逆に、遺産が第三者に渡り、借金だけが相続人に残るような場合には、その負担分が加算されます。
具体的に計算してみる
言葉だけでは分かりにくいので、簡単な例で追ってみます。以下は計算の順序を示すための架空の設例です。
前提
- 亡くなったのは父。相続人は長男と次男の2人だけ(ほかに相続人はいない)
- 相続が始まったのは令和元年7月1日より後
- 遺言に「すべての財産を長男に相続させる」とあり、その遺言は有効
- 遺産は、預貯金2,000万円と自宅4,000万円(合計6,000万円。いずれも相続開始時の評価額)
- 借入金が500万円ある
- 相続開始の5年前、父は長男に事業資金1,000万円を贈与していた(この設例では、民法903条1項にいう生計の資本としての贈与に当たるものとし、相続開始時の貨幣価値に換算しても1,000万円とします)
- 上に挙げたほかに、財産・債務・計算に入れるべき贈与はない
- 借入金を長男に承継させない趣旨とみるべき事情は、遺言にも周辺の事情にもない
第一段階 基礎となる財産の価額
6,000万円(積極財産)+ 1,000万円(長男への贈与)- 500万円(債務)= 6,500万円
第二段階 次男の遺留分額
6,500万円 × 2分の1 × 2分の1(法定相続分)= 1,625万円
第三段階 次男の遺留分侵害額
1,625万円 - 0円(次男は遺贈も生前贈与も受けていない)- 0円(遺言によりすべて長男が取得するため、次男が取得すべき遺産はない)+ 0円(下記のとおり)= 1,625万円
最後の債務の項が0円なのは、この遺言が「すべての財産を長男に」という相続分の指定にあたり、相続人の間では長男が借入金500万円も引き受けたものとして扱われるからです。
なお、これは相続人どうしの関係での話です。銀行などの債権者との関係は別で、次男が法定相続分にあたる250万円の支払を求められることはあります。その場合、次男は支払った分を長男に請求できます。遺留分の計算に上乗せするのではなく、別の問題として処理される、ということです。
この設例では、次男は長男に対して1,625万円の支払を請求できることになります。
もし生前贈与の1,000万円を数えていなければ、基礎となる財産は5,500万円、遺留分額は1,375万円にとどまります。遡って数えるかどうかだけで、250万円の差が出るということです。
この設例では請求する相手が長男ひとりですが、遺言で財産を受け取った人が複数いたり、生前贈与を受けた人が別にいたりすると、誰にいくら請求するのかが問題になります。順序と割合については、稿を改めてご説明します。
寄与分は、考慮されない
「自分は長年、親の介護をしてきた」。遺産分割の話し合いでは、そうした貢献が寄与分として考慮されることがあります。
しかし、遺留分の計算では寄与分を考慮しません。 遺留分侵害額を定めた民法1046条2項が、寄与分の規定(904条の2)を挙げていないためです。
したがって、遺留分を請求された側が「自分には寄与分がある」と反論しても、それによって支払額が減ることはありません。逆に、介護を担ってきた方が遺留分を請求する立場であっても、その貢献を理由に請求額が増えることもありません。
計算に必要な情報が手元にそろっていない、という段階でもかまいません。まずは、お話を聞かせてください。何が分かっていて、何が分からないのかを整理するところから、ご一緒に始めます。